スマイレージ/パン屋さんのアルバイト――日常のミニマリズム・抑制の美学

ショートカット【初回生産限定盤A】

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イントロが鳴り出す。ギターとシンセ(?)のユニゾンで弾かれるメロディにぐっと引きこまれる。Aメロが始まる。グッド・メロディ!<制服を脱げば>という歌詞に一瞬「えっ」と思うが別にそういう意味ではないらしい。Bメロへ。もはや良いを通り越して切なさすら覚える。サビ。さりげない四つ打ちビートが醸す高揚感。と、ここで胸に迫るものがあり、なんだか泣きそうになってしまった。
この曲の何がそこまで良かったのか。ぼんやりとした印象をもとに考えてみる。
まず、4人の歌声が素晴らしい。この楽曲に描かれる物語の雰囲気や登場人物の感情の機微を100%表現しきっている。聴けばすぐにわかるが、この曲で4人は他の楽曲に比べて明らかに抑えられた発声の、繊細さを感じさせる丁寧な歌い方をしていて、それが非常に良いのだ。私にとってのこの曲の美点とは、そのようなヴォーカリゼイションに象徴させる、抑制や平熱感である。思い出すのは、「ぁまのじゃく」だ。あの曲もまた、日常の具体的な描写が織り成す物語性と繊細な内面描写を中心とした歌詞、また音楽的には、早すぎず遅すぎずの中庸なBPMに、ハシャがない主張しすぎない、楽曲の世界像に奉仕するために引き立て役に徹するようなトラックによって構成された楽曲であった(曖昧な説明ですいません)。そしてこの「パン屋さんのアルバイト」もまた、日常のミニマルでささやかな出来事――しかし歌の主人公にとっては一大事な恋愛のワンシーン――とその中での感情の揺れ動きが、中庸で抑制の効いた音楽性によって表現された楽曲である。
この曲の歌詞の中で特に目を引く部分がある。


  好きになった後に 嫌われちゃったら 私は当分 立ち直れないと思う


つまり、「これ以上好きになっちゃうと、この先もしその子から嫌われるようなことがあったら、私は当分立ち直れないくらい激しく落ち込むだろうな〜」ということだ。そのまんまである。これ以外に受け取りようがないくらい、何と率直で説明的な歌詞だろう。しかしこれを、「ケータイ小説のような歌詞」と揶揄される、近年のメインストリームJポップの歌詞と同質の、幼稚さや退行の表れだと評価してはいけない。いや、幼稚であると言っても間違いではないのだが、このフレーズにも作詞者なりの美学や技巧が確かに感じられるのである。重要なのは、ここには観念の入り込む余地がストンと抜け落ちているということだ。そこがこの国の今日的流行歌との大きな違いだ。先にも述べたように、これは、日常のミニマリズムであり、少女の内面をめぐるリアリズムなのだ。

スマイレージというと、つんく♂が1stアルバムのタイトルにおいて「悪ガキッ」という言葉で総括したように、アンファンテリブルさやコミカルさを基本路線として期待されているようだ。しかし、個人的にはそういった路線も楽しくていいのだが、この曲で描かれているような、少女ならではの慎ましやかで繊細な側面も表現していってもらいたい。私はむしろスマイレージにはどこか頼りなげな、「小さき者」としての側面に惹かれるところもある。あの、日本レコード大賞最優秀新人賞受賞をアナウンスされたときの、あまりの衝撃と感動に4人揃ってヘロヘロの状態になってしまい、お互いの身体を支え合うかのように手を取り合いながらよちよちと壇上へ向かって歩いて行く4人の姿には、そのような存在としてのスマイレージが表れていたと思う。