2010年10月16日『キューティー・ミュージカル「悪魔のつぶやき」〜アクマでキュートな青春グラフィティ』@全労済ホール/スペース・ゼロ

12時開演の回、17列目で。考えたこと、思ったことなど。



個人的に、少し疑問が残った箇所があったのですが、それは、物語のクライマックスともいえる、ゆりがダンスのオーディションに行くか事故に遭った母のいる病院に行くか、という二者択一を迫られる場面。この場面で℃-ute演じる5人の悪魔は、悪魔学園の校長から出されたクイズをヒントとして、自分たちがとる行動を導き出します。ここに少し腑に落ちないものを感じたのです。
悪魔たちは、母親かオーディションかという二者択一に悩むゆりに対して、母親を選ぶという「正解」を選ばせるための方策としてその論理クイズを発見します。しかしそもそも、オーディションか母親か、というのはどちらが正解かわからないことこそが面白みだったのではないでしょうか。そして、そのどちらが正しいかわからない困難な状況下で、5人の悪魔ないし主人公のリリーが自分なりの答えを出す姿を描くことでこそ、彼女たちの「成長」が描けるのではないか。そもそもリリーは初めから「オーディションor母親」の選択には全く悩んでおらず、「オーディションへ行かせるようつぶやく」という自分たちの本来の思いとは逆のことをしなければならないことに彼女たちの葛藤がある。ここで、「自分たちが正しいと思うことと反対のことをやらなければならない」葛藤が人生には存在するということを学ぶ、というのも「成長」の描きかたとしてはありうるでしょう。極度のマイペースキャラであり、「私、天使やりたい!」と再三発言していたリリーならば尚更それは「成長」と言えるでしょう。しかしここで彼女たちは、その葛藤を「論理的に」、100%解消してしまう。初めから母のもとへ行くことが正しいと思っているし、実際その通りにゆりを仕向けることができた。なぜ物語がこう展開するかというと、校長から出された論理クイズが物語の最終的な回答として配置されているからです。つまり、この物語は論理クイズに論理的な正答があるのと同型に、悪魔たちがクイズの正しい答えを論理的に導き出すことによって物語がハッピーエンドに終わる、という構造になっているのです。本来この二者択一に対しては論理的に正しい答えを導き出すことはできないはずなのに、この物語ではその論理的な正答があるかのように描かれている。しかし、論理クイズの正答を導き出すことが、彼女たちの成長なのでしょうか。



もう一つの論点。本当に母親のもとへ行くことが疑いようのない正しい答えなのか?ということ。言いかえれば、オーディションを選ぶことが物語の展開として説得的になるような描き方はないのか、ということについて考えてみます。この物語では「母親」というものが重要な要素としてあるわけですが、母親のいないリリーは母への愛情を語るゆりに惹かれ友情を抱きます。ゆりの母親は凄腕のダンサーだったのですが道半ばで挫折し、その思いを引き継ぐかのようにゆりも現在同様にダンスの道を歩んでいるという背景があったのです。だからゆりにとってはダンスもまた母親との絆との象徴なのであって、病院ではなくオーディションを選ぶこともまたゆりが母親を強く思うが故の選択なのだ、と描くこともできたでしょう。
また少しうがった見方をすればゆりもリリーも母を愛している、憧れていると同時にそこに拘泥・依存してしまっているとも見えるので、それからの脱却を彼女たちの成長として描くことも物語の可能な方向としてあったでしょう。主人公であるリリーが抱く、偉大な悪魔だった亡き母への思いが重要な要素として描かれるのだから、その「母/娘」問題に対する回答の提示を物語の核に据えてもよかったのではないか、と*1


■その他雑感

℃-ute演じる5人の悪魔なんですが、なっきぃが強面の強気キャラ、ちっさーが引っ込み思案の臆病キャラ、マイマイが最年少なのにリーダー、と現実の℃-uteメンバーのキャラや立ち位置とは違う人物・性格設定がされていて面白い。セレンの素朴でまじめな感じは舞美さんのイメージ通りかな?セレンの訛りは山形弁でしょうか、笑えました。リリーのマイペースっぷり、言動のコミカルさは通常の愛理ちゃんそのままですね。

○ミュージカルということで舞台オリジナル楽曲がいくつもあるのが嬉しいですが、自分が好きなのはロマンス・トランスのテーマ曲と「remember you」(どちらも正式な曲名わからず)。前者はモータウンっぽくて(うろ覚えなのでぼんやりとした印象ですが)かっこ良かったです。ゲキハロなどハロプロ関連の舞台で使われる楽曲(書きおろし曲)っていい曲が多いと思います。

○パンフレットに℃-uteメンバーと作・演出の太田氏、音楽プロデュースのはたけさんによる座談会が掲載されているのですが、その中のはたけさんの口調が「〜ねん」「そやな」「〜ちゃう」と絵に描いたようなベタな関西弁でなんか面白い。

*1:そういえば少し前に、社会学や心理学、あと文芸批評、サブカル批評といった方面で「母/娘」「母殺し」関係の議論が流行していましたよね。