℃-ute photo comic『℃ompact ℃ream(コンパクト ドリーム)』――アイドルにとっての物語コンテンツ

℃-ute photo comic 『 ℃ompact ℃ream ( コンパクト ドリーム ) 』

℃-ute photo comic 『 ℃ompact ℃ream ( コンパクト ドリーム ) 』

℃-uteが主演する写真コミック『℃ompact ℃ream(コンパクト ドリーム)』(ワニブックス、2010年)を読みました。これは『UTB』誌上で連載されていたもので、マンガ風のコマ割りと吹き出しに写真が組み合わされた「写真コミック」という形態の作品です。
不思議な力をもつコンパクトを使って愛理ちゃんが他のメンバー(同じ学校の生徒という設定)の悩みを解決するという物語。その中のエピソードとしては、たとえば、「親から医大に進学するように言われているが本当は音楽の道に進みたい優等生の女の子が愛理ちゃんのコンパクトの力を借りることで、父親に自らの音楽の才能を披露する機会を得て、父から音楽の道へ進むことを認めてもらう」というような、ごくごくシンプルなもの。偉そうな物言いで恐縮なのですが、本作に収められたエピソードはどれもあまりに類型的で陳腐な内容で、もう少し凝ったストーリーや設定であればもっと面白い本になったのでは……、ということを思いました。「写真コミック」という特殊なメディアの制約上難しい部分もあったのかもしれませんが。
ただ、そのような難点も感じつつ、一方で私はこの作品の物語や世界観をとても好ましく思いました。それは、この作品が、非常に道徳的で健全な内容だからです。この作品には、友情の美しさや夢をもつことの大切さがそのシンプルなストーリーの中ではっきりと描かれています。私は、自分の好きなアイドルである℃-uteが物語の中で、悩んでいる友達を助けるために奔走したり、夢に向かって努力したりする姿に感動しました。真面目で何事にも全力投球な℃-uteのメンバーはきっと、物語のテーマや登場人物の内面を自分なりに咀嚼し、登場人物になりきることへの努力を怠らなかったことでしょう。その作業を通してきっと彼女たちは、友情や夢の素晴らしさを、(架空の物語の一要素として割りきって捉えるのではなく)自分たちの実生活におけるものの考え方へとフィードバックしたことと思います。登場人物になりきるための努力は、言うまでもなくこの作品を創り上げるためになされたものであり、作品が完成したのちは、次第に登場人物を演じた記憶は薄れて行くかもしれません。しかし、記憶が薄れたとしても、この作品の主題やメッセージは℃-uteのメンバーの中に内面化され、その後の彼女たちの人格形成に深く影響を及ぼすのではないでしょうか。
アイドルに与えられる物語には、常にこのような道徳性や健全さがあってほしい、と私は思います。つまり、今回のような「写真コミック」に限らず、映画やテレヴィドラマ、演劇といった物語コンテンツ全般においても同様に、アイドルが主演する作品は、本質的に道徳的な内容であってほしい。そのことによってアイドルがその道徳的な物語を内面化し、人格を育て上げて行ってほしい、と思います。
このことはきっと、作中人物を演じるアイドルにとってだけでなく、作品の受け手であるところの私たちファンにとっても同様であるはずです。すなわち、私たちファンは、自分たちの応援するアイドルが登場する作品であるがゆえに、その物語に対して他の物語よりも深く没入することでしょう。そしてその中で私たちは、物語のもつ主題やメッセージを深く心に刻むのです。平たく言えば、同じ内容の説教でも、会社の上司から言われるのと、自分の好きなアイドルから言われるのとではまったく受け止め方が違う、ということです。
本作のラストには、5人で輪になって手を握り合いながら芝生の上に寝転がり、互いの絆の深さに思いを馳せるという感動的な場面があります。この場面を演じる中で℃-uteメンバーが胸に抱いたであろう思い、また、誌面を通してこの場面を見たときに我々ファンが感じた思い――。ここには、アイドルとファンが幸福で健全な関係を育んでいくための一つの可能性が示されている、と私は信じます。